インハウスマーケター・広告運用者に必要なマインドセット

この記事はマーケティングのインハウス化を進めるうえで必要な最低限の知識や考え方のインストールを目的とした研修コンテンツの第1回です。

さて、なぜ第1回のテーマが「マインドセット(価値観・信念)」なのか。本記事ではマインドセットを「自分が大事にしている考え方」と定義し解説します。

私達は日頃から多くの情報をインプットし、頭や心で処理し、アウトプットに移ります。もし、誰もが同じ思考力やマインドセットであれば、インプットの質や量を変えればアウトプットも変えられる理屈になりますが、実際は思考力やマインドセットは個性に溢れていますよね。

従って、アウトプットとして高い成果を出せるマーケターを育てるには、マーケティング知識や事例のインプットから始めたり、実務などのアウトプットをとにかく渡したりするのではなく、マーケターが成果を出すうえで必要なマインドセットの構築から始めるのが適切なのです。

人は見たいモノを見て、信じたいモノを信じる生き物です。学生時代は何も面白くなかった数学の勉強が、社会人になって急に面白い・理解できると感じた経験はないでしょうか?当時のマインドセットでは、数学が何の役に立つかわからない、要は自分にとって数学や歴史が大事じゃなかったわけです。それが社会人になり、たとえば広告運用で統計解析が必要になったら、あなたの中で数学は大事な知識として認識されるはずです。

このように、マーケターとしての適切なマインドセットが備わっていない限りは、どんなインプットや実務を通しても、マーケターとして高い成果をあげることはできないでしょう。

以下で6年間のWebマーケターのマネジメント・教育を通して、一般的にマーケター・広告運用者が必要なマインドセットにどんなものがあるか紹介します。

インハウスマーケター・広告運用者が備えたいマインドセット

自責思考

広告を運用していれば獲得単価の高騰など成果が出ない苦しい状況を一度は経験します。ただ、多くの人は自分に責任があるとなかなか認められないものです。自責思考がないと、成果が出ない要因を新しい競合が~など外部に求めてしまいがちです。しかし経験上、外部要因だけが要因で成果が出ないケースはそれほど多くはありませんし、そもそも外部に要因があることを証明できるケースは稀です。なので、自責思考がないといつまでも課題解決につながるアクションに移れません。徹底的に自分に原因を求めてから外部を疑っても決して遅くはないです。むしろ着実に前進するので成果を伸ばせるはずです。

もっと良い方法があるはずだ

過去の成功体験や常識みたいなものは、現在そして未来の最適解とは限りません。もっと良い方法があるはずだと考え続けることが重要です。特に代理店の広告運用者は業界慣習などにとらわれず、自由な立場で広告主のビジネスを見ることができるため、現状に満足せず新しい最適解を導き出すという価値をもっと発揮していけると良いです。

天邪鬼思考を持て

元P&Gの伊東氏の発言を拝借しました。他人と同じく選択をするなら勝敗を決めるのは「物量(金)×時間(スピード)」です。資金やスピードに優位性がないなら、否、あったとしても、いかに他人と違うことをやるか、違う方法でやるかに頭を使いましょう。「普通ならこう」に終始するのではなく「こんな考えもあるよね」「こっちのほうが面白いんじゃないの?」とモノゴトを多面的に見れる習慣はマーケターに欠かせません。

発想力をフル回転させろ

データ(事実)があればそれを論理的に組み立てて解決策を導き出せる人は意外と多いです。ただ、ビッグデータという言葉が流行っても、ビジネスにおいて欲しいデータはそう簡単には手に入らないのが現実です。つまり、いつでも限られた情報の中から自分なりの仮説や解決策を導き出していく必要があるのです。しかも、多少のデータ(事実)があってそれらを論理的に組み立てていっても、答えにたどり着くまでの時間がかかりすぎたり、答えにたどり着けなかったりします。ここで重要になるのが発想力(インスピレーション)です。発想力をフル活用すべきなのは、何も突飛な答えがほしいのではなく、答えにたどり着くまでの時間を短縮したり、今あるデータだけでは論理的な説明ができないような最適解を導き出したりするためなのです。

仮説・仮説・仮説!

仮説はあらゆる時間を短縮します。広告運用の分析でも、あらかじめ要因と思われるものを仮説立ててはじめれば、すべての要素をしらみつぶしに分析していくより遥かに早く答えにたどり着けるはずです。また、仮説には検証が伴うので、その仮説が当たろうが外れようが気づきが得られます。この気づきは次のアクションにつながり、また次の仮説に活かすことができます。この繰り返しで仮説の精度が上がっていけば成果を出すまでの時間をますます短縮できるので、より多くの広告主の力になるチャンスが生まれます。

ROIで考えろ

広告主は課題を解決すれば利益(リターン)が得られるから運用型広告にコストを投じて課題を解決しようとします。つまり、広告運用にはリターンを最大化する投資の視点が必要不可欠なのです。どの配信プラットフォーム、プロダクト、ターゲティングに広告費をかければリターンが最大になるのかという費用対効果の視点だけでなく、どんな作業に労力を割けばリターンが最大になるのかという時間対効果の視点もあわせて持ちたいです。レポーティングに時間をかければリターンは増えるのかという話ですね。

シンプル・イズ・ベスト

抽象的思考と言い換えても良いです。シンプルに考えると目的や本質を見失いにくくなります。また応用が利くのであらゆる可能性を広げられます。たとえば、広告運用をシンプルに課題解決と捉えられれば、入札調整や入稿といった具体的アクションにこだわらず課題解決につながるアクションを柔軟に考えられるので広告運用者としての価値は高くなるはずです。

フレームワークを使い倒せ

ゼロベース思考は大切ですが、いつもゼロベースではアウトプットまでの時間がかかり過ぎますし、アウトプットの質もその時々でブレやすくなってしまいます。ビジネスにおいて時間は足りないことがほとんどです。また代理店の広告運用者はひとりで複数社を担当しますが、絶対の成功はないとはいえ一つとして失敗して良いプロジェクトはないはずです。フレームワークは思考時間を短縮すると同時に、モレやダブリを少なく正しい方向に思考しやすいためアウトプットの質を担保しやすくなります。より多くの広告主の成果を伸ばしたいのであれば、ゼロベース思考だけでなくフレームワークを活用しましょう。

事実から目を背けるな

自分原因説に近い話かもしれませんが、人は自分に都合の悪い事実からは目を背けがちです。しかし、自分にとって都合の良い事実や解釈ばかりを集めてしまうと結局クリティカルな要因を特定できないということが起こり得ます。また、たとえば獲得単価が高騰したという事実から目を背けてしまえば、次のアクションに移れず成果は落ちていくばかり…という状況になりかねません。自分の都合にかかわらずひたすら事実を積み上げ、それらに向き合い、目的に対して最適なアクションを考え実行していくのが価値を生み出し続けるための最短ルートです。

リアルに目を向けろ

管理画面上の数値を分析して適切なアクションがとれていれば運用型広告の成果はそれなりの水準までいきます。しかし、管理画面に表示されるデータは現実世界のユーザーが行動した結果だということを忘れてはいけません。人間の本質的なニーズはそうそう変わらないとはいえ、目に見えるところでは現実の世の中には流行り廃りがありますし、気候変動や新しい法律の制定、技術革新などがあればユーザーの行動は変わっていきます。この変化に目を向けて広告を運用できないと、マーケティング思考の話に戻りますが、正しいマーケティング戦略をアカウントに反映していくことはできません。

自分一人で生み出せる価値には限界がある

広告運用者として他人より大きな価値を生み出したいのであれば、テクノロジーの活用とマネジメントは避けられないと思います。繰り返しになりますが、広告運用とは課題解決です。そして、課題を解決できるのであれば、運用型広告の機能を活用するのが人であろうが機械であろうが、担当者が自分であろうが直轄メンバーであろうが関係ありません。なので、自動化の方が上手くいくケースで自動化を活用しないのはナンセンスですし、自分ひとりで十数社の広告主にあたふたするくらいなら、10人の優秀なメンバーを教育して数十社の課題を解決した方が生み出した価値は大きいはずです。

運用型広告の機能は自動化されていくが、広告運用は自動化されない

運用型広告の機能は自動化されていくと思いますが、広告運用は自動化されないと思っています。広告運用の本質は課題解決なので、人より機械の方が運用型広告の機能を上手く使って課題を解決してくれるのであればそれはテクノロジーに頼るべきですし、そうなれば僕らはよりマーケティング戦略の立案やそれに沿ったアカウント設計に時間を使うことができます。マーケティングが得意でそれを運用型広告で実行できる広告運用者の価値は今後ますます高まっていくはずです。

また、すべての広告主が大量のデータを保有できるわけではありませんそうなれば、マイクロコンバージョンポイントの設計など限られたデータで自動化を上手くワークさせられる運用は価値がありますし、自動化に頼らず成果を出せる広告運用者の価値もそう簡単には落ちないと思います。